あれ? あなたは確か……


1.牧場 南さん?
2.牧村 南さん?
3.牧丘 南さん?


 3だな。

「牧丘 美咲さん?」
「違います、牧村 南ですよ、和樹さん。…って、選択した内容すら間違ってるし」
 流石の彼女も、冷や汗タラリ。

「ああ、間違えちゃいました。すみません、牧場さん」
「牧村ですっ」
「ああっ、すみません……わざとじゃないんです」

 確かに、表情そのものはわざとっぽくは見えないが、それはそれでタチが悪い。



 ――結局、その後5分以上の問答を重ねた結果、めでたく彼女は
針馬 雲雀(はりうま ひばり)』となりました。

「母音しかあってないですっ」

 お後がよろしくないようで。





あなたの名前は確か……
Written by Ranke






 結局、和樹さんに名前覚えてもらえませんでしたし、強制イベントで手渡すはずの携
帯番号すら渡せずじまいでした。そもそも和樹さんがあんな頑なに名前を間違える時点
であからさまにおかしいですし、このSSもまともな流れに行くとは到底思えません。
 とりあえず、覚悟しておく必要がありますね。



 そんなこんなで5月っぽいけど8月のこみパ。つまり、夏こみ。


 ・辛味亭

「おー牧やん。新刊チェックか?」
「はい☆ 見せてもらえますか――とその前に」
「ん? なんや?」
 怪訝な由宇。

「由宇ちゃん、私の名前、覚えてますか?」
「なんや? どこぞの売れないギャルゲーみたいな科白吐いてからに。ほならウチは7
年ぶりに会うた幼なじみか? せやったら……、“ああ、覚えとるで、『花子』”で
ええか? なっはっはっは、雪が積もっとらんのがアレやけどな」
 一人突っ走って、見当違いに危ない事を言う由宇。

「由宇ちゃん、ふざけないで。私はまじめに訊いてるんです」
「そんなんわかっとるって。ウチが牧やんの名前忘れるはずあらへんやろ。ちゃ〜んと
覚えとるで、『牧山 光(まきやま ひかり)』、やろ?」
「違いますっ! 『牧村 南』です! なんで由宇ちゃんまで間違えるんですか?」
 牧の字はともかく、母音まで間違えてる分、和樹よりタチが悪い、とまでは思わなか
った。何故なら、彼女はうっかりミナ兵衛だから。
「誰がうっかりミナ兵衛ですかっ!」
 おっと、ツッコミサンクス。


「なんやて? ウチが間違っとる? んなはずありひん。『牧山 光』で合うとる、
これは確実や! それを間違うとる言うんは……」

 あ、いやーな雰囲気ばりばり? 流石のミナ兵衛さんもタジタジ?

「あ、あの、由宇ちゃん?」
「あんた偽者やな!? 牧やんにうまーく変装しとる風やが、そんなんでウチらの信頼
関係は崩れんで!!」
 その信頼という名の城を、内側から崩してるのは貴女でしょうに、と思いながらも、
とりあえずハリセンの影響範囲外へ離脱する南。



 なんてこと……。和樹さんはおろか、由宇ちゃんまで。これは一体、どういうこと?



 ・新住所確定
「すばるちゃん、パトロールご苦労様。とりあえず今は……」
「新刊チェックですのね、はいですの。智早紀(ちさき)さん」


 こけ
 彼女らしくなく、思い切りギャグっぽくこけた。
「……………な、なんてストレートな」
 もはや訂正する気力すら萎えてしまっている。

 その後、『Cat or Fish?!』や『チーム一喝』、果ては『色白い姉妹』や
『神聖腑委員会』ででも手を変え品を変え名前を呼び間違えられ、この会場内で自分の
本当の名前を知っているのは自分だけなのではないか、という気分に陥った。
 何となく端折ったり略してるのは、面倒くさいからではない。そもそも、筆者はそん
な不精は滅多にしない。



「一体、どうなってるの? なんで、なんで私の名前だけみんな忘れてるの?」

 よよよ、と影と縦線を背負いながら、泣き崩れる南。既に彼女のキャラが崩れきって
る気がするが、ギャグSSだからオールOK。

 そこに。

 ぽん
「きゃぁっ!」
 いきなり肩を叩かれる。悲鳴の余韻もそこそこに振り向くと、そこには……

「あ、彩ちゃん……」
 そこには、新刊(だろう)コピー本を小脇に抱えた、長谷部彩が立っていた。
…………漸く、出番が貰えました…………
 確かに、筆者の投稿SSには初登場の彼女。それは由宇も同じだが。

「新刊チェック、お願いできますか、――さん」
「え?」
 名前部分が聞き取れなかった。

「チェック……お願い、できますか、***さん」
「はい?」

「チェック……。×××さん」
「ックゥ……――@@@%<#¥さぁ……ん……………………プツッ










 これは夢。


 間違いなく、これは夢。


 何かロクでもない事が起こる夢。


 そのロクでもない出来事にロクでもなく巻き込まれる、


 そんな、ロクでもない、夢・だ・っ・た―――――――――









『――みさん、…なみさん、南さん、大丈夫ですか、南さんっ』
 誰かが私を呼んでいる……。私の名前……間違え・ず・に……?

 ハッ!

「南さん、よかったぁ、気が付きましたね?」
 側にいて名前を呼んでいたのは和樹だったようだ。和樹のすぐ隣には彩、自分を挟ん
で反対側には、由宇や詠美らもいるらしい。聴き慣れた喧騒は、彼女ら以外にない。

「私、一体……」
「驚きましたよ、新刊チェックしてる途中、いきなり倒れるんですから。熱射病にでも
なったのかと思いましたよ、南さん」
 これ以上ない心配顔の和樹と彩。

「ご、ごめんなさいね。ほんの少し、眩暈がしただけだから。大丈夫ですよ、和樹さん、
彩ちゃん」
 と、ここで漸く立ち上がり、居住いを正す南。

 心配そうに見つめる二人。実は彼らは今回、合体サークルでは初参加である。面白い
話を描くのに埋もれたままの彩を見かねた、和樹のお節介で実現した合体サークルであっ
た。

 そして南は、同人作家として新たな出発とも言える位置にいる二人に期待し、その
新刊をチェックしに来て、読んでいた……筈だったのだが。

 一体、なぜ倒れたりしたのだろう?

 そんな素朴な疑問は、手元にある彩の新刊を見た瞬間、霧散した。

 今回の彩の新刊の内容は、健忘症の大魔法使いが、ついうっかり『忘却』の魔法を、
『混乱』と『改竄』のオプション付きで全世界に放ってしまい、世界各地で発生した
『忘れた』『間違った』事が原因の事故やいざこざを、かなりリアルな視点から生々し
く描き出した、やや彩には珍しい、ブラックユーモア本であった。

「…………………………」
 新刊を持つ南の手が、ぷるぷる震えている。

「どうですか? 今回の彩の新刊。俺がいうのもなんですけど、結構いいと思いません?
ユーモアとか言うか、ウィットに富んでて」
 和樹の顔はニコニコ顔だ。

「…………うふふっ……………」
 対する南の顔も、…………とても素敵な、ニコニコ顔だった…………


「これ、販売停止」
『ええええぇーーーーーーっ?!』




   おしまい











執筆後記(あとがき)


・書き逃げしちゃおっかなー、とか本気で思いました まる
…………南さんのファンの皆様、石投げないでね♪








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