*CAUTION!!*
本文にはコスプレ3人娘ENDのネタバレが含まれています。
彼女らを未クリアの方はご注意ください












 月城夕香の朝は――恐らく、普通ではない。




AM 6:40

 カチッ
『行くぞ……!  飛燕・旋風掌!!!

  ――どががががっ!!
(※1)
「っきゃぁぁぁぁ……。やられたましたですぅぅぅ〜……」

 訳のわからない寝言を言いながら横に転がる。ころころと。
 因みに、彼女はベッドに寝ており、転がった方向は壁とは反対側だ。つまり――

 ぼて。

 当然、落ちる。

「ふにゃ……。痛いですぅ……」

 台詞の割に長閑な声音で、漸く少女――いや、二十歳を迎える時期になったのだから、
女性というべきか――は、床から身を起こした。

「……うぅにゅ……。……ぁぁふぁああぁぁ……」

 女性――月城 夕香――は、目元をこすりながら小さくうめいた。
その様は、どことなく猫の仕種を思わせる。“人間の女性”がとるそのテの仕種について
ある種独特な見解・価値観を持った諸兄諸氏が見たならば、どこぞの某料理漫画並の御託
を並べて、その素晴らしさ(?)を品評したかもしれない。

 ――まあ、そんな事はこの話には一切関係無い。

 夕香は上体を起こした現在の体勢から、漸く立ち上がった。
 小さな欠伸を片手で抑えながら、反対の手を、自分をベッドから落とした原因に伸ばす。

「やっぱり、好きな人がいるのに目覚ましがこれじゃ……、ヘンですよねぇ?」

 と、誰に話し掛けているのか、夕香は明後日の方向を向きながら呑気な声で独りごちた。







Please Call My Name!


Written by Ranke







 コスプレイヤー時代の健康管理の賜物か、コスプレをしなくなった今でも早起きを
欠かすことは無い。起きたら、まず簡単に体操をする。首・肩・腰・膝・手首・足首と、
関節という関節を全てほぐす。夕香は自他共に認める、関節・筋のかたいコなのだ。
活発なパフォーマンス可能な玲子と比べて動きの少ないコスをしているのには、キャラへ
の愛や変身願望以外にも、そういった事も理由の一つだったりする。

 体操が終わると、そのまま朝食の準備。夕香はどちらかというと和食派なのだが、
流石に朝だと時間が無いので、食パンとコーヒー、ベーコンエッグと至って普通の朝食
になる。


 玲子や“千堂さん”のように歩いて大学へ行けるのが羨ましいです。
 高校時代は私の方が学校に近かったのに。


 それは兎も角、夕香は簡単な朝食を心持ち急ぎ気味に平らげ、洗面所へ向かう。
 そこでパジャマの上を脱ぎ、ブラをつけ、肌着を着る。
 以前までなら特に感慨のなかったこの過程も、今では彼女の気をやたらと掻き乱す。
 女同士、しかも男性キャラオンリーラブだった頃なら話題にも上らなかったが、4人組
の中では、夕香は密かに最もバストが豊かだった(※2)
 女子高時代、玲子達以外の別の友人からも、『夕香って着やせするタイプよね』等と
言われた事もある。褒め言葉なのか皮肉なのかは考えないことにして、自分の身体的
アドバンテージが他にどれだけあるだろうか、と身体のあちこちを見渡すのが、最近彼女
が気付いた時に取っている行動だった。健全な男子諸君が見たら前屈みものだが。

 あ。髪の生え際に吹出物……。やだなぁ、千堂さんに顔見せられません。



 洗顔して歯を磨き、ドライヤーでしつこい寝癖をセットする。
 私服に着替え、化粧とリップも塗り終わり、準備が整ったところで夕香は時計を見た。

 AM 7:38
 あら。少し遅くなっちゃいましたねぇ……。



 自宅から電車で通っている夕香にはそれ程余裕のある時間ではない。
 それに、タイミングを外してしまうと、年甲斐も無く“がんばっちゃってる”
ヒヒオヤジと電車を相乗りする羽目になって、何だか色々な意味での人生の危機に
陥っちゃったりしてしまうかもしれないからだ。



 まあ、最近は女性専用車両もありますけどね……。



 夕香は鞄を持ち、自転車と家の鍵を取って自転車のそれをポケットに突っ込んだ。
 玄関でおろしたての靴を履き、姿見でちょいちょい、と髪の毛を気にした後、扉を
開いて外に出た。持っている鍵を鍵穴に差し込んで捻る。
カチッ、といい音がしたところで鍵を抜き、ノブを捻って施錠を確認する。



 さて、行きましょう! 
今日こそは千堂さんに“最初に”名前を呼んでもらわなきゃ、です。


 ………え? 何でそんなことって?
 仕方ないじゃないですか。――だって千堂さん、私の名前だけ、いつも最後に呼ぶんで
すから……。
 優しい千堂さんのことです、恐らく他意は“全く”ないんでしょうけど、ね……。
私も“一応”恋する乙女。些細な事を気にするお年頃、です。

 ――と、早く行かないと。




 駅までの道を自転車で急ぎ、駅構内でそれなりにギリギリな時間に焦りつつ、
タイミングよく到着した電車の乗降口へ向けて、思い切り駆け込んだ。
  ――駆け込み乗車は危険ですから、良い子は真似しないで下さいねー♪――
                               by 牧村 南

「ふぅ……。何とか間に合いましたぁ……」
 さり気なく女性専用車両に乗り込み、ほっと息をつく。体育は別に苦手ではない(※3)が、
流石に朝っぱらからの短距離走は心臓に悪い。

「辛そうね、ゆぅ・かぁ?」
「ッ!?」

「――この、世にも意地悪げで狡猾で天使の仮面をつけた小悪魔風味な性格で人の努力
を根本から水の泡にさせる事に執念を燃やすザ・キング・オブ・水差し名人のしかも
背が低くて胸ぺったんなお子様でその所為で余裕無くしてトンチンカンな発言かました、
私たちの中では意外とキャラが立ってそうで立ってないこの娘こそもちろん悪い意味で
脇役の中の脇役サブキャラ・オブ・サブキャラ――ていうか下民・オブ・下民ズな声の」
 ぴしゃり
 主は――、と言いかけた夕香の発言は途中で遮られた。

「ふ・つ・う・に『美穂』と、呼べんのかぁぁぁ? 貴様はぁぁぁぁあ?」
 微妙に通勤ラッシュ前ということもあって車内はそれなりに空いていたので、
世にも意地悪げ(中略)胸ぺったん(中略)脇役の中の脇役(後略)とこき下ろされた少女
――星野 美穂――は、見た目に反した異常なまでの猛毒を吐く友人の頭を取りあえず
一発はたき、ヘッドロックをかけた。そのどさくさに旋毛(つむじ)のツボを押したり(※4)する。
「ああ! ドサマギでやっても判りますぅ! いくら自分の背が低いからって、既に高い
相手にやっても意味ないですっ」
 相変わらず毒の尽きない夕香の舌。
「うるさい、あんたなんか便秘になればいいのよっ!」
 いくら女性しか乗っていないとは言え、うら若き乙女達が電車の中で喋る台詞ではない。

「えい」

 するっ

 相手は所詮、自分より小柄。夕香は美穂の腕を掴み、自力で拘束を外した。

「ふぅ……。朝っぱらから疲れさせないで、美穂」
「はあ、はあ……。だ、誰の所為だと思ってんのよ?」
 言う程疲労したように見えない夕香と、相手の分まで疲れたような美穂だった。



 それにしても……。美穂と同じ電車に乗ってしまったのは誤算でした……。
 このままでは――“千堂さんに名前を最初に呼んでもらえる”確率トップの美穂がいて
は――、私のささやかな望みが……ていうか、冒頭からここまで引っ張ってきた展開が
全て無為に――! ああ、やっぱり美穂は水差し名人です。神様、どうかこの
 ぽかっ

 殊の外(ことのほか)いい音を響かせて、夕香の頭が鳴った。発生原因は言わずもがな、美穂の拳骨
である。
「あんたね、背を向けて何ブツブツと聞こえない声で、心なしか聞こえてたらもっと
酷く叩いてやろうかなーなんて考えちゃいそうな独り言言ってんのよ? ていうか既に
背中からどす黒いオーラみたいなモンが出てるし!」

 拳骨握り締めて唸る美穂。

「そんな風に聞こえたり見えたりするのは、普段の行いの悪さを、美穂が自分で自覚して
るからですねぇ。そうでなければ被害妄想です。どっちにしろ冤罪ですぅ」
「くぅっ!」

 美穂の怒気をさらりと流し、つんとそっぽを向いていけしゃあしゃあと告げる夕香。
 とはいえ、何か思い当たる節でもあるのか言い返せない美穂。
 この辺の駆け引きの上手さは、やはり夕香に分があるようだ。


 ――――2分後――――

 二人でそんな莫迦な事をしているうちに、電車は次の駅に到着してしまった。
「…………」
「…………」
 牽制しながら睨み合う二人。他の乗客も、とばっちりがくるのを恐れて一人また一人と
二人の側を離れ、中には降りてしまう人もいた。彼らの中にはここで降りる予定ではない
者も数人いたのだが、そんな事実を知る術も心の余裕も、生憎彼女らには無かった。

 そして――

「あれ、美穂と…夕香も?」
 声の主は、長い髪をゆったりとした2本のおさげにした、まだあどけなさの残る顔立ち
の少女――夢路 まゆ――であった。

「「まゆっ!?」」

 なんでコイツが今ここに? とでも言わんばかりの剣幕で二人が叫ぶ。
――最早、二人には電車の中にいるという意識がないらしい。

「な、何だよー、二人とも。ボクがいたらまずい訳?」
 周囲の視線を気にしながら困惑した表情で――それは当然だろう――、二人に問い
掛けるまゆ。
別に


 ほんのつい今しがたまでいがみ合っていたとは思えないほどの息の合い方で、二人の声
がハモった。おまけに二人そろって半眼でまゆを()めつけたりする。
「うっわ、信じらんない二人ともー、顔があからさま過ぎ! ていうかわざと?」
 付き合いの長さ(中2〜現在)故か、大まかな事情を読んだまゆはそう判断する。


 ――また2分後――


「大体さー、夕香も美穂も意識しすぎじゃないかな? 和樹クンとのお付き合いだって、
まだ本格的に始まってるわけじゃないし」
 本日の『女の戦い』に最後に加わった事で二人のノリに合わせ損なったまゆは、仕方
なく正論で攻める事にした。実際、あれから日はそれほど経ってはいない。デートはした
が、3人+和樹のグループデートである。

 が。

「自分も参加者の一人のくせして何呑気な事言ってるんですか。いざとなったら、ぼろ
雑巾や鼻かんだちり紙や、配膳前にうっかり誰かが涎垂らして配膳できなくなった給食の
おかずみたいに、友情を丸めて捨てるに決まってます。誰かさん、なら」
 あからさまに含みを持たせて、わざとまゆを視界に入れずに淡々と告げる。
「そうよねー。誰とは言わないし人の事言えないけど、親友を出し抜こうとしたしねぇ。
虫も殺さないようなイノセントな顔でさぁ。おまけにあたしや夕香や玲子でさえ名字止ま
りなのに、何気に下の名前で呼んでるし。誰かさん、だけは」
 
 確かに、自分でも絶対にしないとは言い切れない夕香からの指摘に加え、自分でも無意
識だった――以前までは――下の名前で呼ぶ事に対するツッコミで、名前は出されてない
とは言え――というかあからさま過ぎるが――まゆは(にわか)に焦る。
「そ――、それはっ……。はううぅぅ……。
 で、でも! 一番先に盟約破ったの夕香だし、ボクは――」
「どう思われます美穂さん? あのコったら、自白したと思ったら親友に罪を全てなすり
つけて自己弁護図ろうとしてますけど……」
「ホントにどうしようもないほどのカマトトですことぉ。親の顔が見たいですわねぇ?」

 井戸端会議のおばさん二人、といった感じで二人が陰口――思い切り聞こえよがしに――
を叩き合う。

「うううううぅぅぅぅ…………。ああああああああぁぁぁぁもーーーーー!」

 結局まゆもキレた。



 ――和樹が以前、何だか3人の仲が悪くなっているような……? と感じていたが、
どうやら実態はこういうことらしい。




 ――代々森駅到着――



「まったく、まゆのお陰で恥かいちゃいましたねぇ」
「あの程度で我を忘れるなんて、まだまだよ、まゆ」
「……夕香と美穂にだけはそんな事言われたくないよ……」

 三者三様の態度・表情で、駅の外へ出る3人。

 夕香は相変わらず何を考えているのか判らない柔らかな表情で。
 美穂はどうでも良さそうな笑顔で。
 ――まゆだけはいつもより疲れ気味で肩を落としながら。理由は…語るべくも無い。




 3人の喧嘩――というか牽制――というかじゃれあい?はこの4月に入ってから頻繁に
繰り返されている。原因はそのいずれも似たようなものだ。
 先日の春こみの一件以来、グループ交際をしているとはいえ、いつ何どきどんな形で彼
の心が動くか知れないのだ。その時に少しでも長く彼の選択肢に残れるように、彼女らの
涙ぐましい努力(?)は、こうして毎朝(!)行われているのであった。






 通学途中――

どうせなら“私だけ”両想いになってから学校に来たかったですねぇ
「ん? 何か言った、夕香?」
 美穂が耳ざとく訊いてくる。
「んぅん、別に」
 やはり、傍から見ると何を考えているのか判らない顔で、夕香が答える。
「まぁた不穏当なコト言ったら、今度こそはり倒すからね?」
 半眼で釘を刺す美穂。
「自分の願いを呟く事を不穏当だと言うのなら、世の中にいる人ほぼ全員殴らないといけ
なくなりますねぇ」
 夕香の屁理屈。
「ぐぬぬぬぬ……、この揚げ足取りがぁ〜〜〜」
「まぁまぁ、二人とも……」
 まゆがなだめようとする。が。
『カマトトは黙って(て・て下さい)』
 すかさず二人からツッコミ。

「………………」
 カマトトなんかじゃないやい、という呟きは二人の口論にかき消され、誰も聞く者は
いなかった。





 ――大学到着――


「着いちゃいましたねぇ」
「着いたわね」
「着いたね」

 異口同音――語尾だけ三者三様――に呟く。

 三人は、大学正門を通って少しのところに固まって立っていた。
 現在時刻は8時23分。講義は9時開始なだけに、学生もまだまばらである。ちなみに、
3人の中で本日の1コマ目――つまり9時開始の講義――を履修している者はいない。

「ねぇ夕香、あんたって一コマ目受けてたっけ?」
 夕香の右隣から、でも夕香の顔は見ずに、美穂が尋ねる。
「そういう美穂も朝は暇ですよねぇ」
 質問には答えず、夕香が切り返す。

『………………』
 春とはいえまだ冷たい風が、二人の間を吹きぬけた。

「ま・さ・か・とは思うけど、千堂クンに会うために早く来た……とか言わないよね」
 口元を引きつらせ、パチもんダイヤの輝きのような素敵な笑顔で言う美穂。
「何で“まさか”なのか気になりますが、美穂が自意識過剰なのは再確認できましたねぇ」
 皮肉に皮肉で返す。あくまで美穂の言葉を素直に肯定するつもりはないらしい。

『………………………』
「ねぇ夕香、あんたって私に根の深い恨みでもあるの?」
 顔はあくまで向けず、だが視線だけは夕香の方を見ながら、美穂。
「美穂には一生わかりません。五十音順なら一番早いのに、いつだって最後に呼ばれている
私の痛みなんか…。本編での千堂さんからはもちろんのこと、いな○このラジオの紹介の
時だって、
インターネットの攻略ページとかキャラ紹介ページとかだって、私は常に最後。
そして美穂は最初。一人称ボクのまゆにキャラ性で負けるならまだしも、コスプレの萌え
度やスタイルや知性やその他もろもろで私より劣っている美穂に負けるのが納得いかない、
ていうかおかし過ぎ――」

 ぱかんっ!!
「なに電波受信して訳解らない事ほざいてんのよ、あんたわーっ!!」
 夕香の愚痴は何時の間にか、聞いている人間はおろか言っている本人すらも意味不明に
なっていた。たまらず夕香の頭を引っ叩く美穂。

「大体、名前の順番なんか関係ないじゃない! 千堂クンって優しいから、順番でランク
つけるなんてコトしないわよ、きっと」

「本当に関係ないと言い切れるんですかぁ、美穂? あなたは常に最初に呼ばれている事
が当り前だからそんな事が言えるんですぅ。美穂も実際に私の立場になればわかりますぅ。
どれだけ不安に駆られるか…ふふっ」
 小さく握った手で口元を抑えながら、妖しげな微笑を浮かべる夕香。仕種そのものは
艶っぽいが、その瞳は極寒の地に立つ樹氷の枝を思わせる程怜悧で、漂う空気はこれ以上
ないほど妖しかった(※5)



「む? そこに立つはまい同志の同志どもではないか!」
 いきなり、無駄にやかましい声が闖入してくる。
「今日も今日とて、まいぶらざぁの寵愛を受けんと、平安宮廷も此くの如しな女の闘いの
真っ最中のようであるな! さしずめまいぶらざぁが桐壺の帝(※6)ならば、誰が桐壺(※6-2)――また
は藤壺(※6-3)――の役になるかの争いであろう? とはいえ、今の状況を鑑みるに、諸君らの中
からは弘徽殿(※6-4)の……――だうっち!?」

 どがすっ!! ごめしっ!!

 解る人――特に女性――にとっての禁句を大声で言った大志は、正拳突き3発と真空飛び
膝蹴り(?)を顔面と背中(??)に喰らい、沈黙したさせられた。

「それ以上言ったら……殺しますよ……?(※7)
 正面きって目を合わせたら、冗談抜きで相手を睨み殺せそうな程の羅刹の瞳で、血に
染まる拳を握り締めながら夕香が言った。
「夕香……、あんた怖過ぎだって」
 自分も一応殴りはしたものの、夕香よりは理性的な顔で呟きつつ拳の血を拭う美穂。

「み、みんな、おはよう……」

「おはようございますぅっ、千堂さん!」
 羅刹モードでも聞き分けられる和樹の声で一気に正気に戻った夕香は、コンマ01秒で
返り血を処理し、輝くような、それでいて落ち着いた雰囲気を醸し出す何処か理知的な色
をしたいつもの顔に戻ると、元気な声で挨拶した。

「お、おはよう…。夕香ちゃん、美穂ちゃん、まゆちゃん」
 ちょっぴり冷や汗を垂らしながら――当然だろう――、大志に真空飛び膝蹴りを食らわ
せた事も忘れて――当然…か?――、改めて3人に挨拶する和樹。

「え…………?」
 和樹の挨拶に一番反応したのは夕香だった。


「千堂クン、何時の間に?」
「いや、この莫迦が失礼な事をほざいてたから何時ものように天誅食らわしただけだけど」
「やっぱり和樹クンって優しいよね。 ボクやっぱりあこがれちゃうな〜」

 そんなやりとりは、夕香の耳には届いていなかった。夕香の頭の中は――
(やりました! ついに、ついに! 千堂さんが私の名前を“最初に”呼んでくれました!
 これってもしかして進展の予感? 新たな気分で迎える朝は、私と一緒に……)

 夕香にとってはまさに悲願(?)とも言える一言だっただけに、何時もの彼女とはキャラ
の違う暴走の仕方である。

「ところで千堂クン、今日は夕香を最初に呼んだけど……何か意味があるの? ――もし
かして――」
 確かに、いつもは最後の夕香が最初に、最初に呼ばれる美穂が2番目、2番目に呼ばれる
まゆが最後と、ことごとく何時もの順番と違う。美穂自身、別に気にしていたわけではない
が、夕香の怨念こもった呪詛を聞いた後では、何となく意識してしまうのも仕方なかった。

「え、そうだっけ? いや、特に意味はないんだけど……」
「そうなの?」
 と、まゆ。夕香の電波発言の影響を受けて、少し弱気になっていたらしい。
「じゃ、なんで今日は呼ぶ順番が変わってたの? 意味はなくても理由はあるでしょ?」
 と美穂。

「理由と言われても……。並んでる順番、かな……?」

『?』

 と、何時の間にやらアッチの世界から復帰してきた夕香も含めた3人の頭に“?”が
浮かぶ。

「あ、いや、今日は夕香ちゃんが真ん中で、美穂ちゃんが――こっちから見て――右、
まゆちゃんが左に立ってるから……何となく……。ぁあ、ほら、そういうのってない?
真ん中を先に見て、利き手側、その反対って順でよく見たりしないかな?」

『!』

 そこでようやく3人は自分たちの位置関係に気付いた。確かにいつも美穂を中心にして
歩いていたような気がする。さっきまで美穂は夕香の右にいたが、大志を張り倒す際に後
ろを向いたから今は左だ。美穂の反対側にいたまゆも同様である。

「な、なーんだ、そう言うことだったんだ。心配して損しちゃった」
 と、少し乾いた笑いの美穂。
「やっぱり意味なんかなかったんだねぇ。あーよかった」
 と、まゆ。

「まいぶらざぁ! そこでまったりしておる暇はないぞ! 折角早く着いても遅刻しては
意味がない! さぁ行くのだ、遥けき我らが講義室へ! マッハ25のスピードで駆け抜
けるのだぁ〜!!」
 と、これまたいきなり復帰してきた大志が和樹の腕を引っ掴んで去ってゆく。

「この莫迦何時の間に復活しやがった何がまったりか遥けきってそんな遠くないだろ25
以前にマッハ超えたら教室飛び越すだろうがおまけにそれってコミック版のネタだろああ
いったい幾つお前に突っ込みゃいいんだ――――――――――――――っ!!」

 和樹の声がドップラー効果を残してゆくのを唖然として聞きながら、3人娘は今回の自
分たちの存在意義について悩んだとか悩まなかったとか。






「うぅぅ、折角最初に呼ばれても、これじゃちっとも嬉しくないですぅ!」
 握りこぶしを胸元で二つ合わせ、いやいやするようにかぶりを振る夕香。


 起き抜けからここまで引っ張っておきながらこの仕打ち。まあ、夕香でなくとも
そう思いたくはなるかもしれないが……。



「私って、結局ただのギャフンキャラだったんですかぁ?」

 何ていうか、途中から自滅していた気もしないでもないが……


 そうなんだろう、多分。








 ―― 強引に、了 ――








執筆後記(あとがき)修正版

 誤解はしないでほしいんですが――
 Rankeは夕香ちゃん大好きです! ――3人の中では。
……本当ですって!


・修正にあたって
 『大志のヲタク進化論』にて使用した注釈のアイディアがカメさんに
好評だったので、それ以前の話にも使おうと考えたのが修正のきっかけです。
その際に、ドリキャスやオペラユーザに不親切だったあとがきをばっさり
削り、本文中に差し込みました。注釈以上の知識は、自分で高校時代の
教科書を引っ張り出すなり、図書館で本やビデオを借りてくるなりして
なんとかしてください(笑。










かような駄作にも、何かおっしゃって下さる事があれば、こちら までどうぞ。
面白い・つまらない何でも結構です。もう書くな、てのとウィルスメールとかは勘弁してください。

それでは、またいつか運命の交錯する場所で――







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