そのたいろいろなひとたち



 枯葉も山の賑い。


・・・故に語ろう。

 枯葉の物語を。
 小さな狂騒を。
 後悔という言葉を思い出す前に。


          ◇


「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
 うららかな陽気の季節。開店時間を少し過ぎたばかりの店内で、2つの人影が対峙して
いた。
 外は、降水確率0%と天気予報のおねーさんも大絶賛の快晴。平日、開店したての店内
に客の姿は少ないが、店内に飾られた色とりどり――というか無節操――な広告やら商品
やらで、無意味に息苦しくはある。無論、客も店員もそんなことは承知の上だ。
 それらの情景(?)を無視して、対峙する2人の視線が静かに火花を散らしていた。交
わす言葉もなく、ただ張り詰めた空気だけが2人の挟間を支配する。
 無言の緊張に耐えられなくなったのか、それとも次なる事態への伏線なのか、片方が口
を開いた。
「これだけは・・・譲れないでござるよ」
「・・・そ、それはこちらも同じなんだな」
 2人が視線を動かす。偶然ではなく必然として、2人の視線は同じ標的を捉えた。占有
であるはずの2人がいがみ合わなければならない原因。人を狂わせるもの。全ての元凶。
 これさえなければ、2人がいがみ合うことはなかっただろう。だが、これがなければ彼
らは存在意義(レゾンデートル)を保てない。その存在を否定することは出来ない、敵を
作り出してでも、それを求めることしか出来ない。
 それの名は――

 アニメ『カードマスター ピーチ』
     DVD第1巻(初回生産限定豪華特典付き)


          ◇


 その店について一言で簡潔に説明することは難しい。それと同種の店を呼称する言葉は
複数あり、どれが正しいとは言えない。知名度の差こそあれ。
 それらの店を差す呼称の中には、聞きなれない外国の言葉を連ねることで美麗字句っぽ
く見せかけているものもあったが、人々の評価は結局のところ、同じ場所に辿りつ
く。・・・安易に、オタクっぽい店、と。
 とにかく、アニメとかゲームとかのそーゆー感じの品々を「これでもかッ」といわんば
かりに陳列しまくった店の中で、2人は対峙しているのであった。
 彼らの名は定かではない。だが、彼らを呼称する名は用意されている。
 即ち――『おたくたて』と『おたくよこ』
・・・名前だけで説明が要らないから楽だ。

 TVで放映され、人気を獲得したアニメを数話分、収録したDVD。収録時間は1、2時間
の代物。どんなに人気があるといっても、たかだか1、2時間の映像に数千円を叩くのは
経済的ではない。全話分を揃えるとなれば尚更だ。だが、彼らは迷わない。魂と食費あた
りを削ってでも購入する・・・そーゆー生物だから。
 無論、今日発売のDVDは、おたくたて・よこも発売決定直後に予約し、発売日の今日に
めでたく受け取る予定であった。
 しっかーし、予定外の悲劇が起きてしまった。2人の予約を取った店員が、あろーこと
か伝票の記入ミスをしでかし、予約客に対して発注数が足りなくなってしまったのである。
・・・因みにその店員(バイトの大学生。元は美大を目指していたが今は何の因果か同人
街道驀進中)は、レジで所在無さ気にしている。記入ミスについては、『丁度、即売会の
前で修羅場入ってました』と釈明したとかしなかったとか。
 彼のことは一先ずおいといて・・・
「いい加減、諦めるでござる。来週にはきっと、再販分が届くでござるよ?」
 おたくたては店員に視線を向ける。店員は首を縦に振った。
「・・・そ、そうはいかないんだな。特典がついてるのは初回生産分だけなんだな・・・
特典がついているのとついていないのでは、お、大違いなんだな」
「あくまで譲る気はないでござるか・・・」
 おたくたては、声質を低くして言った。
「と、当然なんだな・・・簡単に譲るくらいなら、最初から予約なんてしないんだ
な・・・」
「それもそうでござるな。・・・このままではやはり、平行線でござる・・・」
「話しても分からない人なんだな」
 おたくよこの声も僅かに低くなった。
 2人の間に、これまでとは違う空気が流れ始める。背中に妙なオーラが燃えているよう
だった。
 一触即発。どちらかが血を見るかと思われるこの事態に、干渉することが出来る者など
はどこにも――
「がっはっはっはっは〜」
――いたりして。


          ◇


 張り詰めた雰囲気の店内に馬鹿笑いを響かせて、1人の男が姿を現した。
 黒塗りのガスマスクで顔を覆った、『私は不審者です』と言わんばかりの怪しさ爆発な
男だった。
 謎の闖入者は無意味に胸を仰け反らせ、尊大な態度で名乗る。
「俺様は禁愚――」
「うるさいんだな」
 おたくよこが放り投げたマ○チ等身大ポップにテンプルを直撃され、不審者はあえなく
撃破された。
 床に這いつくばって、ぴくぴくしながら「MHX-12恐るべし」などと呻くが、誰も聞い
ちゃいなかった。
 ついでに、たまたま通りかかった短大生3人組に踏み潰されたりする。
「昨日発売のゲーム雑誌に、新作の情報出てたよ〜」
「やっぱり、翔サマとガッシュ様が・・・」
 彼女達はゲームの話で盛り上がり、床に転がっている黒っぽい塵には気づいていないよ
うだった。

・・・はい、不審者の出番終了。


          ◇


 邪魔者が消えたところで、おたくたて・よこの間に再び緊張が張り詰める。
「つ、つまらない邪魔が入ったんだな」
「寿命が延びたでござるな・・・」
 おたくたてが、眼鏡のフレームを指で押し上げる。眼鏡が妖しげな光を放った――よう
な気がした。
 おたくよこの顔を汗が伝い落ちる。緊張しているからではなく、単に体質だろうが。
「そろそろ・・・決着なんだな」
「我輩も、早く家に帰って昨日録画した番組を観たいでござるよ」
 いよいよ、2人の間に張り詰める緊張感が頂点に達し――
「これを頼む」
 いつのまにか、レジ前に1人の大男が立っていた。この場には似つかわしくない、やけ
に体格のいい男だった。しかも何故か学ラン姿。ある意味で、先ほどの不審者よりも怪し
かった。
「こちら5,040円になります。丁度お預かりします。ポイントカードはお持ちですか?」
「うむ」
 大男とレジ係りの店員の間で、事態がスムーズに運んでいく。大男はもう直ぐ貯まりそ
うなポイントカードを財布に戻し、商品を入れたビニール袋を片手に持つ。ビニール袋か
らはポスターがはみだしているが、気にしている様子はまったくない。
 そのはみだしたポスターに見える絵を覗くだけで、この大男が何を購入したのか2人に
は分かってしまった。それは彼らが目的としている品に間違いなかった。
 2人の視線にはお構いなく、大男がおたくたて・よこの間を通り過ぎる。
「ありがとうございました〜」
 店員の声を背に、大男は颯爽と去っていった。
 おたくたて・よこは暫し呆然としていたが、やがて思い出したように口を開いた。
「ひ、引き分け・・・なんだな」
「引き分け・・・でござるな」
 空調設備の整った店内に、何故か乾いた風が吹いた――ような気がした。

  おしまい





  

あとがき?



 えーっと、今回、縁あってこみパのSSを執筆させて頂きました、天希と申します。

 本来はWeb上でオリジナルの小説を公開している身なのですが、今回はSSに挑戦です。
まともなSSを書くのは初めてなのでちょっと勝手が分からず、話の構成とか考えてると
きにはそれなりに苦労したのですが・・・いざ執筆を始めると、夜中のハイテンション状
態で一気でした。

 サブキャラクターを話の中心に据えるのは、割とすんなり決定してたり。サブキャラク
ターなら、熱烈なこみパのファンからブーイングとかこないだろうってことで。


 では、最後になりましたが、つたない駄文を読んで頂き有難うございました。


01.11/09
天希


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